2026年6月現在、インディペンデントで活動しているアーティストの活動形態を次なるアーティストに向けてアーカイブしていくガイド企画『ERA BY(読み:エラバイ)』。今回は、ロッククライミング・中南米研究会といった早稲田大学の音楽サークルをルーツに結成された大所帯バンド『Kokemaro』。医者や社会人など、メンバーそれぞれの生活環境が大きく変化していく中で直面する「制作とライブのバランス」や「大所帯バンドならではの課題」、そして『これからのバンドの在り方』について伺いました。
◼︎プロフィール
2021年に活動開始。早稲田大学の音楽サークルThe Naleio、中南米研究会での出会いをきっかけに結成したポエトリー・ファンク・ロックバンド。James BrownやP-Funkからエッセンスを吸収し、自らの身体に滲む言葉をうねりとして躍動させる、アジアのファンクバンド。旧名義は「こけつまろびっツ」。「こけつまろびつ:息をあまらせて何度も転びながら進んでいく様」というニュアンスがロックンロールの和訳にふさわしいという理由から名付けられた。楽曲を単に再生するわけではなく、即時的なエネルギーに身を任せ、もはや祭りに近いライブパフォーマンスで観客や空間と一体化する。ライブハウスに縛られず、路上でもバンドスタイルでの活動を展開。アジアを中心とした、海外での活躍を目指す。
PAST(過去・これまで)
大学サークル時代
── 皆さんの学生時代の音楽との関わりや、メンバーと出会ったきっかけを教えてください。
林田(Sax): 僕は高校時代、吹奏楽部でファゴットをやってたんですが、ずっとファンクに憧れがあったんです。コロナの給付金でサックスを買って、次の日に『The Naleio』(早稲田大学の音楽サークル)の新歓に飛び込みました。
猪俣(Dr): 僕も中高は吹奏楽部でパーカッションだったんですけど、大学からはドラム一本でやりたいなと思っていて。吹奏楽の同期と一緒に『The Naleio』の新歓に行って、「新しい世界に突っ込もう」という思いで飛び込んだのがきっかけです。
柴原(Gt): 僕は早稲田ではなく東京医科大だったんですけど、コロナで部活が禁止になっちゃって。普通にバンドをやりたかったので、とりあえず有名だった『ロックラ』(早稲田大学の音楽サークル『ロッククライミング』)に入って、そこで丈くん(旧ボーカル)たちと知り合いました。
そら(Tb): 僕は中高、大学とずっとオーケストラをやっていました。大学院のゼミで丈くんと一緒になって、彼がバンドをやっているのを知ってライブに行くようになり、トロンボーンが抜けたタイミングで誘われた形ですね。
こけつまろびっツ
── 初期はどのような活動だったんですか?
柴原(Gt): 最初は「おてんばしろーず」という名前の時期もあって、そこから「こけつまろびっツ」として活動を始めました。丈くんがサークル内でオリジナルをやりたい人を集めて、キング・クリムゾンの曲に日本語の詩をつけたカバーみたいなことから始まりましたね。
── 今の音楽性に至った経緯について教えてください。
林田(Sax): 最初は筋肉少女帯やJAGATARAをリファレンスにしていたんですけど、2023年の夏か秋にジョージ・クリントンが来日した時にみんなで観に行って、そこから明確に方向性が固まりました。
柴原(Gt): 日本語のポエトリーリーディングを繰り返してエネルギーを蓄積して爆発させるスタイルと、P-Funkの音楽性がすごくマッチしているんじゃないかって。
Kokemaro
── 英語名義『Kokemaro』に変更した理由はなんですか?
林田(Sax): 新宿で路上ライブをよくやっていて、意外と海外の人からの反応が良かったんです。
猪俣(Dr): だから、海外の音楽リスナーにも少しでも覚えてもらいやすく、検索で目につきやすいようにしたいなと。それで去年の冬、「音楽進化論」というオーディション・イベントに出るタイミングで、思い切って英語表記に変更しちゃおうということになりました。
NOW(現在)
フルタイム勤務の制約と試行錯誤
── 学生時代から環境が大きく変わったと思いますが、現在はどのようなライフスタイルの中でバンド活動を行っていますか?
柴原(Gt): 僕は医学部を卒業して、今は医者として2年目になります。
そら(Tb): 僕は早稲田の文学部の大学院を出た後、現在は教育関係の仕事をしています。
猪俣(Dr): 自分は大学院生なのですが、他メンバーもフルタイムの仕事が始まって、学生時代のように圧倒的にバンドに使える時間が減った中でも活動の継続性について試行錯誤しながらバンド活動を続けている状態です。
── 時間的制約がある中で具体的にどのような試行錯誤がありましたか?
猪俣(Dr): ライブにサポートメンバーを入れる割合が増えているので、全員のスケジュール調整や金銭的な面での工夫は必要ですね。
林田(Sax): 金銭面もだけど、サポートが多いとライブ時の信頼関係・結束力みたいな部分は多少薄れる感じもあるかもしれないですね。
柴原(Gt): シンプルに付き合いの長さが違うからね。
猪俣(Dr):そういった意味では、今までボーカルの丈くんがバンドのコンセプトを決めて周りが実務に落とし込む形だったのですが、彼が抜けてからは全員が同じパワーバランスになってしまって、むしろ方針がなかなか定まらないってこともあるかもしれないです。
PEOPLE(誰と)
山本 直親
猪俣(Dr): ファーストアルバムの制作を中心となって進めてくれた大学の先輩です。レコーディングからミックス、マスタリングまで全て担当してくれました。当時、私たちの身近でオリジナルバンドをやりながら外で活動していて、かつロッククライミング(早稲田大学の音楽サークル)の動画などのミックスも担当しているという情報を知っていたので、山本さんにお願いすることになりました。
自身のバンド「Magic Son」、「CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN」のサポートなどで活動する。
こけつまろびっツの1stアルバムにおけるレコーディング、ミックス、マスタリングを担当。
野口 文
そら(Tb):セカンドアルバム以降のレコーディングやミックスを担当してくれています。元々はボーカルの丈くんと高校からの同級生で、最初はキーボードのサポートとして誘ったのが関わるきっかけでした。彼の家は、ミックス作業を兼ねた私たちの溜まり場のような場所になっていました。ファーストテイクを大事にする彼の哲学や音像の要素などバンドとしても音楽的な面でも多大な影響を受けています。
こけつまろびっツの2ndアルバム以降のサウンドを支えるエンジニアであり、キーボーディスト。自身もソロ活動を行なっており、"botto" 等のアルバムリリースを行なっている。
中西 風巳
林田(Sax): こけつまろびっツの元ベーシストです。彼はオーケストラの出身で、他のメンバーとは音楽のバックグラウンドやスタンスが少し異なっていたのですが、我々の持っている共通言語を共有していた一人です。
柴原(Gt): 『ない壁』、素晴らしかったね。
こけつまろびっツの元ベーシスト。現在は個人名義で活動中。野口文のライブ・レコーディング時のギタリスト等も務める。
PLACE(どこで)
ゲートウェイスタジオ 高田馬場3号店
高田馬場にあるこのスタジオは、僕らの活動の7〜8割を占める中心地です。練習はもちろん、音源のレコーディングもここで行っていました。早稲田界隈のバンドマンは安さもあって絶対ここを使っていますね。レコーディングの時にベースアンプの電源を入れた瞬間にフロア全体を停電させてしまったり、スタジオが洪水になったりと、数々のトラブルも経験した一番馴染み深い場所です(笑)。
西武新宿駅
スタジオでリハーサルをした後、そのままよく新宿の路上に移動してライブをしていました。川崎などでもやっていましたが、新宿は特に海外の方からの反応が良く、立ち止まってチップを入れてくれるなどリアクションが多かったです。海外の音楽リスナーにも検索などで見つけてもらいやすくするために、バンド名を「こけつまろびつ」から現在の英語名義(Kokemaro)に変更したのも、ここでの手応えが大きなきっかけになっています。
阿佐ヶ谷 MOGUMOGU
自主企画ライブなどを行っていた阿佐ヶ谷の小さなライブハウスです。ライブハウスというと地下にあって暗く、夜のイメージが強いですが、ここは3階にあって自然光が差し込んでくる「光のあるライブハウス」なんです。内装も世界中のキノコの写真が飾られていてサイケデリックで素敵で。ライブをやった回数自体は下北沢の方が多いのですが、バンドとしては阿佐ヶ谷のこの場所の方が強く印象に残っていますね。
REFERENCE(影響を受けたもの)
── メンバーの皆さんが個人的に影響を受けている音楽はどのようなものですか?
林田(Sax): エンジニアでキーボードの野口くんの影響もあって、Sun Raやジョン・コルトレーンなどからの影響は大きいです。
そら(Tb): 僕は中高大とずっとオーケストラをやってきたので、無意識にクラシックっぽさが出ているのと、ホーンとしてはシカゴなどの影響もあると思います。
柴原(Gt): 元々はジミ・ヘンドリックスが好きだったんですが、最近はファンカデリックのエディ・ヘイゼルが一番今の自分のプレイに近い気がしています。最近は彼を聴いていると「あれ、これ俺が弾いてるのかな?」と分からなくなるくらい一体化していますね(笑)。
── 個人の多様なバックグラウンドは、どのようにKokemaroのサウンドとして形になっているのでしょうか?
猪俣(Dr): 僕はTOTOのジェフ・ポーカロみたいなカッチリしたスタジオミュージシャン的なドラムが好きで個人練習もするんですが、いざバンドで合わせる時は全然違うプレイになります(笑)。メンバー全員、それぞれのリファレンスはありつつも、誰かに寄せようとしても結局は己を出してしまう「我流」が多いですね。
そら(Tb): バンド全体として、「うまさ」や「綺麗にまとめること」を求めていないんです。カッチリ合わせに行くのではなく、あえて「ズレ」を楽しんだり、ファーストテイクの初期衝動的な面白さを大事にしています。それぞれが好き勝手やっているようで、ステージのパッションや空気感と合わさった時に「Kokemaroとしての正解」になる、そういう生々しさがサウンドの核になっていると思います。
RECOMMEND(同時代アーティストへの言及)
ゆうやけしはす
以前一緒のイベント(音楽進化論)に出演した時、ライブが格段に良くて、メンバー内で話題になったバンドです。
弓場 俊太郎(Ba)は、実は1年ほど前にベースが抜けたタイミングで、一度だけ新宿の路上ライブにサポートとして入ってもらったこともあります。
座布団忍者
サークルの後輩にあたる、かなり若い世代のバンドです。まだ直接の関わりはないんですが、個人的にすごく好きで、いつか自分たちで企画をやる時に誘って対バンしてみたいと勝手に話しています(笑)。リリースされているアルバムもめちゃくちゃクオリティが高くて、ジャケットの雰囲気も素敵です。
まるたんぼ
直接関わることはあまりないんですが、バンドのライブを観た時に純粋に「めちゃくちゃ良かった」とメンバー全員が納得したバンドです。
シンプルなレコメンドとして挙げたいですね。
TOBE(未来・これから)
── 今後の具体的な活動計画をどのように描いていますか?
6月以降は少しライブ活動を落ち着かせて、作曲や制作に集中したいとメンバー間で話しています。ボーカルの丈くんが抜けてからまだ1曲も新しい音源を出せていないので、彼がいない新体制での曲をしっかりと形にして出していきたいです。いくらライブが強みとはいえ、同じ曲ばかりやり続けていると自分たちでもさすがに飽きが来てしまいますからね。
── メンバーが社会人になった現在、大所帯バンドとしての持続可能性についてはどうお考えですか?
Kokemaroの魅力はやっぱり"ライブ"ではあるんだけど、全員が医者や社会人になり、学生時代のように圧倒的に時間が取れなくなっている中で、ライブをこなす「ライブ屋」にならないように新しい作品を作りたい。制作とライブのバランスを上手く取りながら、新しいKokemaroとしての説得力を提示していきたいですね。
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