“アジアにおける定額制の音楽ストリーミングサービス" 2016年ATM 後編

2016/09/30
by Iichiro Noda

 様々なセッションが行われたなかで、世界ではダウンロード販売の売上を定額制のストリーミングからの売上金額が超えたということもあり、やはり今でも主要なトピックの一つである"定額制の音楽ストリーミング"の話。今回はその中でもアジア地域に特化したサービスを紹介します。

 

 と、その前に世界の定額制音楽ストリーミングサービスで現在議論になっているのが、定額制とアドストリーミング型の収益率の差の話があります。産業全体として定額制のストリーミングの収益の成長は、DLの減少をカバーし、音楽産業全体の成長を支え始めており昨年約2000億円で40%の成長をみせている。それに比べてアドストリーミング型(Youtubeなど)の収益は600億円とされています。収益だけみると、30%程度なんで悪くなく見えますが、議論は利用ユーザーの数がキーになっております。そもそも、1ストリーミングの再生単価が安すぎて、DLをカバー出来ない、こんなんじゃ音楽産業が衰退するという議論はもはや、過去の産物のようです。(※あくまで産業全体としての数字の話であり、国や、アーティストの立場で良し悪しは、もちろん変わると思います)

 

Infographic: Music Streaming – Subscriptions Win | Statista
You will find more statistics at Statista

 

 例えば、Youtubeでの音楽利用者は8億人とされており、アドストリーミング全体で9億人程度が音楽を利用していると推定されています。そこに比べて、世界最大と言われているSpotifyの定額制ユーザーは4000万人+その他サービスの有料利用者を加えていくと約7000万人程度となります。つまり、10倍以上の人がアドストリーミングで音楽を利用しているにもかかわらず、収益は1/3なので少し乱暴に計算しちゃいますが、利用者の音楽支出は年間67円=アドストリーミング、年間2857円=定額制となっており、アドストリーミングの事業者はもうちょっと音楽業界にお金払わないとねっ!という議論が起きているのです。

 

 これを踏まえてアジアの音楽ストリーミングの話ですが、デジタルミュージック(ないしは動画)にお金を支払うという概念が薄いアジア各国では、原則アドストリーミングが主流となります。先進国のようにお金を払ってもらうという事自体が難しいのが大前提ということです。

 

 

QQ MUSIC:Andy Ng氏 

The World Turns to China: Jonathan Dwokin, Andy Ng, Simon Robison, Simon Wheeler, Rob Schwartz

 

 Spotifyが海賊版音楽を撲滅するための音楽サービスとして成長したきたのは有名ですが、20年間もの無料音楽市場が続いてた大国Chinaで、その状況を打破するサービスが”QQ Music”だと、登壇者のAndy。このQQ MusicはTencentが運営しており、中国で最大規模のチャットアプリWeChatの運営会社でもあり、日本でいうところのLineに近い存在。今年のカンファレンスでは大きくスポンサーとしても関与しているようで、パンフレットなどにも大きく成長をアピールしていました。

 

 彼らは5年前にQQ MUSICのサービスを開始し、4年前に中国市場を変えようとし始めたとのことです。出来る限りコンテンツの独占配信(原盤権利者から権利を合法的に許諾してもらう)を目指し、24時間のモニタリングシステムを作ってまで、海賊版を撲滅するため動き続けてきた。そして、やっと去年の7月から海賊版の取り下げをする動きが、政府の後ろ盾もあり加速しはじめた。それ以降、9ヶ月で約1000万定額制の課金ユーザー、デイリー1億ユーザー、1500万曲を保持するといった急成長ぶりをみせています。

 ちなみに総楽曲の約96%は海外の曲であり、約4%=60万曲は中国のオリジナル楽曲。そしてユーザーの約8割は中国のオリジナル曲を聞いており、残りの2割が海外楽曲を聞いているとすると、それでも2000万人がデイリーで聞いているという巨大サービスです。これを裏付けるかのように、ソニーやワーナーの登壇者の方も、直近で一番マネタイズの実績が出きている中国国内のサービスだと説明していました。

 

 但し単純には比較出来ないのが、顧客単価やサービス内容。冒頭に書いたとおり、お金を払う文化に変わろうとしてはいるものの、単価は月額で8RMB 300DL (122円) 12RMB 500DL(183円) 15RMB (228円)のメニューと安い。QQ Musicのユーザーのデモグラフィックスは、ティア1(富裕)&2(中流)テリトリーの住人。なぜなら、ティア3以降はスマートフォン自体を保持していない人たちが多いからとのことです。

 

 また、彼らはソーシャルネットワークの中のコアエレメントとしての音楽を位置づけており、シェアーするという文化を推進しています。さらに、3年前より行っているQQ AWARDSは、40グループなどが出演し、1000万人がライブ中継で同時視聴するまでになっています。海外系ですと、どういうのが聞かれている、売れているのか?という質問に関しては、韓国のBigbangが500万アルバムダウンロード、その他ワーナーも100万DLなどの実績は出ているとのことです。

 

Saavn:Paramdeep Singh氏

  インドは位置づけ的にはネクストChinaと言われている、大国であります。その理由は、人口が12億人という規模と、またそのうちなんと57%もの人が25歳以下というからすごく、若い人が多い国とります。そんななか、Saavnは1800万人のアクティブユーザーを抱えるインド国内でも最大手との定額制の音楽ストリーミングサービスであります。もともとは国内のアグリゲーターから始まり、80%以上の国内楽曲を集めたため、現在はプラットフォームに転換したという経緯のインド特有の経緯を経ています。

 また積極的に世界展開もしておりFacebookや、Whatsupなどと連携をしているとのことです。シンガポールでもテレコム会社と連携し、Spotify、KKBOXと同等の流れで紹介されておりました。楽曲の60%がボリウッドミュージックと独特な楽曲構成になっているが、最近はEDMや、HIPHOPのような独立系のインディアン音楽も増えてきているとのことでした。さらに、直近では海外楽曲の売上シェアーが2%から、20%へと急激に伸び始めているというのが、大変興味深い内容でした。

 

 

 

 

東南アジアでのストリーミング

Asia Streaming update: John McLellan, Gavin Parry, Tkayuki Suzuki, Chee Meng Tan, Vinit Thakkar

Transparency in Streaming age: Charles Caldas, Syaheed MSBI, Simon Moor, Alxander Shulgin, Mandar Thakur

 

 東南アジア諸国ではローカライズがとても重要であり、各国で違う支払いの形式、ネットインフラ、政府問題などを個々にクリアーしていく必要がありました。実際に、95%がプリペイド方式であり、殆どのサービスがアドモデル(広告原資でのモデル)とのことで、その環境のなか定額制を増やしていきたいが、バランスが非常に難しいとのことです。

 

 またSpotifyのCheeさんは、最近伸びている国に関しては、フィリピンだと言っていました。これは公用語が英語といった文化背景が影響しているからかなと推測できます。また成功事例として、シンガポールの現地アーティスト(これだけも稀有だが)Linyingが、SpotifyのスポットライトをきっかけにSummer Sonic(日本)やドイツのフェスなど世界ツアーに行く事例も出てきている。さらに、ATMに来ていたスペイン、イスラエル、香港などでマネージメントをやっている人たちもSpotifyなどのストリーミングの良いところは、各国からのライブオファーなどが意識していない国からくるという事だと言っていました。

 

 登壇者からの発言ではないので、あくまで参考程度ではありますが、インドネシアではmelon(韓国発)のストリーミングがアドストリーミングモデルを軸に急激にシェア-を広めているという話を聞き、さらに東南アジア各国ではK-POPアーティストのライブが積極的に行われているとのことでした。

 


 

 断片的な情報で大変恐縮ではありますが、今回の総括としてやはりアジア地域の状況を聞けば聞くほど、ネクストステージだなと思わされました。どの産業でも数年~十数年前から言われている平凡な総括になりますが、そのネクストというのが音楽産業に関しては、ここ数年で確実に始まっているなという状況です。ここから、さらに市場の規模が膨れるとともに、各国で現在共通の問題としてある、決済インフラ、ネットインフラ、権利周りの整備が進むと一気に加速するかと思われます。

 

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