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“地域と音楽レーベルの在り方” 『KIRIDOSHI RECORDS』 インタビュー

2017年03月02日

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“地域と音楽レーベルの在り方” 『KIRIDOSHI RECORDS』 インタビュー


東京都内から、電車に揺られて1時間。都会の喧騒をはなれ、海や山々に囲まれながら、ゆっくりと心休まる時間を過ごすことの出来る街、「鎌倉」。その土地のもつ淡い色彩や空気感、どこか哀愁漂う風景が、昔から今に至るまで、多くの人々を惹きつけ続けています。

 
昨年夏、そんな「鎌倉」を発祥の地とする、ユニークな音楽レーベルがスタートしました。山や丘を掘削してできた古道に由来する「切通し」という言葉をその冠に付けたレーベルの名前は、『KIRIDOSHI RECORDS』。
 
 
鎌倉を活動拠点としながら、その景色をモチーフにした楽曲制作、CDと雑誌が融合した音楽雑誌『Echo』を創刊するなど、インディペンデントな姿勢で、独特な活動を行う音楽レーベルです。
 
今回のSpotlightでは、『KIRIDOSHI RECORDS』代表をつとめる新井良平さんと、制作・広報の斎藤佑介さんに、インタビューをさせて頂きました。鎌倉という場所を拠点にして活動を行う理由や、書籍型CDという商品フォーマットに込めた想いなど、たくさんのことを伺いました。
 
 
鎌倉って場所自体に、すごく惹かれて。

 
ーー本日はどうぞ、宜しくお願いします。まず、『KIRIDOSHI RECORDS』として、鎌倉を拠点に活動をはじめた経緯から伺わせてください。
 
新井:はい。元々僕は、『The Moonlights』と『Baby It’s You』というロックバンドで、東京都内でずっと音楽活動してきて。
 
斎藤:僕は最初、その新井がつくる音楽のリスナーだったんです。当時から、「ほんとにいい曲を書くよなぁ」って、ファンでした(笑)。
 
新井:(笑)。
 
斎藤:いや、ほんとですよ。
 
<Who put the bomb?/Baby It's You>
 
新井:ありがとう(笑)。それでけっこう長い間、都内でバンド活動を続けていたんですけど、30歳前後になって少しずつ都会の生活に疲れたというか。もう少し違う生き方や、生活の仕方があるんじゃないかと思うようになって。そんな気持ちで日々を過ごしている中で、たまたま奥さんの実家が、戸塚にあったんですね。そこで戸塚の家によく足を運ぶようになったんですけど、ふとしたときに鎌倉のはなしが出て。奥さんに「鎌倉って、意外と近いんだよ」って言われたんです。
 
ーー戸塚あたりだと、電車で30分くらいですか?
 
新井:そうなんです。横浜に住んでいるひとや、戸塚に住んでいるひとだったら、実は鎌倉って30分もかからず行ける場所なんだってことを、そこではじめて気付いて。僕、30歳を過ぎるまで、一度も鎌倉に行ったことがなかったんです。今こんなに、「鎌倉かまくら」言ってますけど(笑)。
 
斎藤:ははは(笑)。
 
新井:それで、「近いんだから行ってみよう」と、奥さんといっしょにはじめて鎌倉に行って。そこで鎌倉って場所の雰囲気だったり風情だったりに、ものすごく心を洗われたんですね。都内から1時間でいける範囲に、こんなに良い場所があったんだと感動して。
 
ーー音楽レーベルの運営云々の前に、一個人として、鎌倉のよさに心を打たれたと。
 
新井:はい。あとは当時、奥さんの家に「鎌倉物語」があって、それを読んでいくうちに、どんどん鎌倉への想いが勝手に膨れあがってしまって。
 
斎藤:「鎌倉物語」(笑)。
 
新井:当時の自分と重ね合わせて、なんだかグッときてしまったんです(笑)。そのタイミングで、自分自身も家庭の事情で引っ越しをしなくちゃいけなかったので、「だったらいっそ、鎌倉にしよう!」と思って、思い切って鎌倉に引っ越して。だからそうですね、最初から鎌倉で音楽レーベルをやっていく構想があったとかでは全然なくて、まずは鎌倉って場所自体にすごく惹かれて、そこで暮らしてみたかったというのが、はじまりですね。
 
 
湘南モノレールに、挨拶に行って。

 
ーー実際に住みはじめて、どうですか?
 
新井:暮らしに関しては、すごく良くなりました。以前と比べて、ストレスもかなり減ったし、気分転換しようと思ったら、海にだって行けるし、山にだって行けるし。音楽活動をするのにも、特に不自由は感じていないです。まあ、四六時中バンド仲間とつるむようなことは出来なくなりましたけど、その分、自分の時間を持てるというか。「おれ終電早いから、帰るね」なんて格好つけちゃったりして(笑)。
 
ーー活動スタイル的なところでいうと、明確に「鎌倉」という土地に根を張って、自分たちは「鎌倉の音楽レーベルなんだ」と旗を掲げる音楽レーベルって、今までありそうでなかったですよね。
 
新井:うん。今は、僕たち以外にないんじゃないかな、それを実際に冠にした音楽レーベルっていうのは。レコードショップはいくつかあるんですけど。
 
斎藤:自分たちが(KIRIDOSHI RECORDS)意識しているのも、そこですし。
 
新井:まず大前提として、鎌倉という場所自体がほんとうに素晴らしいんだから、そこで愛されるような音楽レーベルを目指すことや、その土地となにか密接に関わっていくことが、自分たちのアイデンティティになると思っているんです。
 
ーー最新作『Echo No.2』のジャケット写真は、モノレールですよね?
 
<真夏のフォトグラフ By ECHO>
 
新井:そうです。このアートワークは、自分の普段の生活圏内にある「湘南モノレール」をモチーフにしていて。タイトルになってる「真夏のフォトグラフ」って楽曲自体も、鎌倉で過ごす時間から受けたインスピレーションで生まれた曲で。
 
斎藤:『Echo No.2』のリリース自体も、この「真夏のフォトグラフ」って楽曲を、なんとかリリースしようってところから、始まってますしね。
 
新井:おもしろいのが今回、湘南モノレールをモチーフにしたジャケット写真になったので、湘南モノレールさんにご挨拶に行ったんです。
 
ーー会社としての「湘南モノレール株式会社」にですか?
 
新井:はい。きちんと一言、断っておこうかなと思って。
 
斎藤:もう、作っちゃった後ではあるんですけど(笑)。
 
新井:(笑)。まあ、それでもなんとか先方にお時間頂くことが出来て。打ち合わせでジャケットを見せながら「これは湘南モノレールをモチーフにしていて、音楽も鎌倉の生活からインスピレーションを受けて作っているんです」と説明したんです。
 
ーーへぇー!実際にお会いされたんですね。
 
新井:はい。ご担当者もすごくいい方で、話をきちんと聞いてくれて。それでせっかくの機会だったので、もしも(作品を)いいなと思って頂けたら、湘南モノレールの駅にポスターを掲示させてもらえないか相談してみたんですね。そしたら「基本的には協力するよ」と。湘南モノレール自体も、企業として地元のアーティストやカルチャーを大事にしていきたいから、できる限り協力すると言ってもらえて。それで結果として今回、湘南モノレールの各駅に「真夏のフォトグラフ」のポスターを貼ってもらえることになったんです。
 
 
ーーすごい!!
 
新井:貼ってもらえる代わりに「湘南モノレールに向けて、メッセージを書いてください」とオーダーをもらったので、急いで別バージョンのポスターを準備して、そこに湘南モノレールに向けてのコメントを載せて。それですごくうれしかったのが、湘南モノレールって大船から湘南江の島まで全部で8駅あるんですけど、その全駅にポスターを貼ってもらえたんですよ。
 
斎藤:しかも、特に掲示期限もなく貼ってもらって。ほんとうにありがたいですよね。鎌倉の音楽レーベルって言っても、まだ無名の音楽レーベルですし。
 
新井:今後も湘南モノレールとして、なにかうまく組めることがあればやりましょうと言ってもらえたんです。
 
ーーおもしろいですね。地域の音楽レーベルと企業の、あたらしいタイアップというか。
 
新井:はい。そこが去年、『KIRIDOSHI RECORDS』を立ち上げたときからの目標だったので。リリースする作品のコンセプトや、ジャケット写真・アートワークを含めたクリエイティブが、「鎌倉」って地域に根ざしているから出来ることだと思うんですよね。レーベルの「地域性」というものを、思っているよりもはやく、生かすことが出来たんじゃないかなと。
 
斎藤:僕たちは音楽レーベルとして、そういった「地域性」を掲げているんですけど、もっと広く目を向ければ、他の企業やコミュニティだってもちろん、そういう「地域で出来る取り組み」について考えているんですよね。
 
新井:そうそう。だからそういった分野で、ジャンルを超えてリンクできれば。まさかこんなかたちで、さっそく(湘南モノレールとの)リンクができるなんて、思ってなかったですけど(笑)。
 
<真夏のフォトグラフ By ECHO 【OFFICIAL CM】>
 
 
他の宣伝方法を、考えなくちゃ。

 
ーー『KIRIDOSHI RECORDS』のユニークな点として、今まで伺ってきた「鎌倉」という地域性の部分と、あとはやっぱり、『Echo』という書籍型CDの存在があると思うんです。今回も、いわゆるCDパッケージと同じ価格帯で、30数ページの読みものが付いてくる。
 
新井:まぁ、よくやってますよね。
 
斎藤:(笑)。
 
<ECHO No.1>
 
新井:前作に続いて「No.2」になるんですけど、ライナーノーツやアーティストインタビューが変わらずありつつ、よりコンテンツをギュッと濃縮したものになりました。
 
斎藤:写真も、ファッションブランドの撮影などをしているプロのカメラマンにお願いしてこだわっていて。
 
ーーそもそもどういった経緯で、『Echo』という音楽メディアの創刊に至ったのでしょうか?
 
新井:簡単に説明すると、もともとKIRIDOSHI RECORDS発足前、僕はANNA RECORDSというレーベルを運営していました。そのレーベルが、2015年で設立10周年を迎え、その記念にファンジンを作ろうと考えたんです。そのタイミングで斎藤と出会い、やり取りしていくうちに「雑誌」という形態になり、KIRIDOSHI という新しいコンセプトのレーベルのアイディアが生まれ、雑誌『Echo』というアイディアに至りました。
 

 
新井:発行にあたって、僕が参考にしたのは 「リズム&ペンシル」のジョナサン・リッチマン号です。あのサイズ感や情報量、アーティストへの愛情表現といい、とっても大好きで心に残っていた雑誌だったんですよ。その他、雑誌発行の成り行きはECHO No.1に詳しく載っているのでそちらを読んでほしいです(笑)
 
斎藤:そうですね。『Echo』のコンセプトの中心は、レーベルのIR。新井の提唱する“KAMAKURA SOUNDの価値が伝わるか”が誌面づくりの鍵になっているんですよ。編集人として常に心がけているのは、持続可能性のある舵取り。一つ良い作品を作るのではなく、ゆっくりでいいから、長く読んでもらえるものを作り続けていくことが大切かなと思っています。
 
新井:ただ今回に関しては、まずは曲ありきだったんです。『真夏のフォトグラフ』という楽曲をリリースしたいという想いが、最初の出発点だったので。だからそれを、『Echo No.2』というかたちでリリースするべきなのかどうかは、かなり悩んで。
 
斎藤:そこはかなり、話し合いましたね。新井と僕以外のレーベルスタッフのみんなからも、色んな意見が出て。いつもどおりCDパッケージにしようとか、いっそカセットテープにしてみるのはどうだろうとか。それと、CDにもブックレットが付けられるんだから、それと「雑誌」という形態をとることって、本質的にそんなに変わらないんじゃないかって意見もあったりして。
 
新井:色んな意見やアイディアは出たんですけど、最終的には、せっかく前回『Echo No.1』を出しているんだから、その続編をつくることで、レーベルとしての印象やスタンスを打ち出していこう、というところに落ち着いたんです。
 
斎藤:前回と同じ、レーベル独自のフォーマットでリリースし続けることが、レーベルとしてのイメージや、『Echo』のメディアとしての存在感を、高めてくれるんじゃないかなと。
 
ーーなるほど。
 
新井:それに前回は、内容的に「CD付録付きの雑誌」という感じだったんですけど、今回はCD(音楽)メインというか、CDに収録されている音楽の内容を、雑誌がプロデュースするかたちになっていて。だから『Echo』という同じ商品形態ではあるんですけど、音楽雑誌なのか音楽パッケージなのかって意味合いが、大きく異なっているんですよね。
 
斎藤:そうですね。だからレーベルとして、そういった同じ商品形態の中でも出来る工夫や表現に挑戦しつつ、『Echo』ってブランドは統一させることで、「KIRIDOSHI RECORDS といえば、これだよね」というイメージを、お客さんの中につくっていきたくて。
 
新井:あと実際に、あえて『Echo』という形態にこだわったことが、結果としてチャンスを広げてくれたなとも感じるんです。さっきの湘南モノレールさんとの取り組みに関しても、実は出発点に、今回の『Echo No.2』がなかなか大手のCDショップに興味を持ってもらえなくて、他の宣伝方法を考えなくちゃいけなかった、という事情があって。
 
斎藤:たしかに…(笑)。
 
 
インディーズ的な、音楽流通。

 
新井:恐らく興味を持ってもらえなかった理由のひとつに「音楽パッケージなのか分かりにくい」って要素はあったと思うんですけど、それでも今の既存の音楽流通に、今までどおり何の疑問も持たず商品を流通させることへの違和感を、すごく感じたんですね。
 
斎藤:やっぱり、他の方法論を考えなくてはと。
 
新井:それで、現時点で僕らが出来ることはなにかを考えたときに、もう一度「地域性」、「鎌倉」という部分に立ち戻って。「地域に根ざした音楽レーベル」というのが、やっぱり自分たちの個性であって、そこから出来ることを考えるべきだなぁと。
 
 
斎藤:新井といっしょに、「頭を下げる方向が違うぞ」という話になりましたね。僕らは、鎌倉の地元で暮らしている人たち全員に知ってもらえるような、その地域ですごく人気があって、大手のCDショップが飛びつかざるを得ないような、そういう状況を作っていくことが大切なんだなと。
 
ーー出口を音楽の「小売」に限定して考えるんじゃなくて、「地域」という切り口から、もう一度考え直そうと。
 
新井:はい。それが今回の作品の流通をとおして得た、大きな気づきですね。今までの流通に縛られなければ、もっとできることはたくさんあるぞと。たとえば、湘南モノレールのご担当者には「祭りに出ればイイじゃん!」ってすごく言われたんです(笑)。でも、ほんとそのとおりで、地域の温泉とか、飲食とか、お祭りとか、そういったものと音楽がリンクしていく方法が、きっとあるはずなんです。「インディーズ的な音楽流通」というか。
 
斎藤:インディーズだからこそ、まだまだ可能性があるはずだって思いますよね。『Echo』だって、CDショップに置いてたら、分かりにくい商品かもしれないですけど、本屋に置いたら、「少し変わった本」になれるかもしれないし(笑)。
 
 
ーー最後に、今後の「KIRIDOSHI RECORDS」の展望について伺わせてください。
 
斎藤:そうですね。レーベルとして「鎌倉」という地域に根ざすっていうのは、もちろん最初に取りかからなくちゃいけない大仕事ですけど、ゆくゆくは、それをもっと広義の意味で広げて行きたいですね。新人アーティストや、地域で頑張っているアーティストたち、そういった他の音楽も、レーベルがメディアの役割を担ってピックアップできるようになれれば。
 
新井:僕はちょっと逆行した話になるかもしれませんけど、いい曲を作って、いい音楽を作るってことですかね。まずはそれをしっかりやることが、なによりの根幹になると思いますし、今後の全活動のベースだと思いますので。長く聴ける音楽、長く聴かれるに耐え得る良い音楽を、アーティストとして作っていくこと。これを一番大切にしつつ、そこから生まれた音楽で、ジャンルを超えて、たくさんのひとたちとリンクしていきたいですね。
 
(おわり)
 
KIRIDOSHI RECORDS 
 
止まった時間が過ぎていく街、鎌倉の音楽レーベル。レーベル名の「切通し」は、山や丘を掘削してできた古道に由来している。https://www.kiridoshimusic.com/

 

 

 

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